食道がん
食道癌について
食道は喉と胃をつなぐ、長さが25cm程度の管状の臓器です。(歯から食道上部までおおよそ15cm程度なので、胃カメラでいえばマウスピースから約15+25=40cmほど挿入すれば胃に到達することができます。)
食道は詳しくみると、消化管に特徴的である4層構造(表面から奥に向かって粘膜、粘膜下、固有筋、外膜)がみられます。食道癌のほとんど(日本人の食道癌の約90 %)は粘膜の上皮である扁平上皮の細胞増殖帯というところから発生します。つまり表面から発生し、横や縦に進展していくということになります。
国立がん研究センターがん対策情報センターによると、日本において食道癌は女性と比べ男性に多く(約5.4倍)、年齢は60-70歳台の方に多くみられる、とされています。ただ男性の罹患率は横ばい〜減少傾向であるのに対し、女性の罹患率は緩やかに増加傾向にあります。
また食道癌は大きく扁平上皮癌と腺癌という組織型に分けられます。欧米やオーストラリアでは腺癌の割合が比較的多く半数以上が腺癌と言われていますが、日本を含む中国・台湾などの東アジアにおいては約90 %程度が扁平上皮癌と言われています。
食道癌の危険因子
扁平上皮癌の危険因子として、喫煙と飲酒があります。これらは独立した危険因子ですが、組み合わさると相乗的にリスクが上昇することが知られています1,2)。南米における解析では、飲酒での食道癌のリスクは男性4.03倍、女性1.42倍、喫煙での食道癌のリスクは男性4.45倍、女性1.57倍であり、飲酒と喫煙の両方の嗜好があった場合は、男性17.0倍、女性7.26倍とされています3)。日本での研究でも同様に、飲酒と喫煙の両方の嗜好があると食道癌のリスクは著名に上昇し、多量喫煙かつ多量飲酒の方では50.1倍まで上昇すると報告されています4)。
喫煙は本数が多ければ多いほど、期間が長ければ長いほどリスクが高くなる傾向にあるとされています5)。タバコの煙には多環式芳香族炭化水素やN-ニトロサミンなどといった69種類もの発癌物質が含まれており、食道癌の発生において詳細は不明ですが、これらの物質が関与しているのではないかと言われています。いずれにせよ食道癌予防の観点から、禁煙は強く推奨されると言えます。
飲酒については疫学研究において扁平上皮癌のリスクが2.0-4.4倍に増加すること、喫煙と同様、飲酒量が増えれば増えるほど、飲酒期間が長ければ長いほどリスクが高くなる傾向にあります5)。また期間よりも1日の飲酒量のほうが発癌リスクを高めること、アルコール度数が高いお酒を飲んだ方が発癌リスクを高めることも言われています3)。
そのほか、栄養状態の低下、果物・野菜の摂取不足によるビタミンの欠乏も危険因子となること、緑黄色野菜や果物を摂取することが予防につながる可能性があることが言われています6,7)。
食道癌の治療
食道癌は内視鏡により存在診断しますが、どのくらい進行しているかは内視鏡に加え、CT・PETなどによる検査で評価いたします。
進行の程度により、治療方法が異なります。
(下記、食道癌取扱規約第12版に沿います)
ステージ0:癌が食道の表面に限局しており、リンパ節転移のない状態
→内視鏡的切除、手術、放射線照射、化学放射線療法(化学療法と放射線を組み合わせた治療)
腫瘍の広さや深さなどにより異なります。これらは内視鏡により判断いたします。ステージ0と判断し内視鏡切除をおこなったとしても、深達度が深ければ追加で手術もしくは化学放射線療法を考慮する必要があります。
ステージⅠ:リンパ節転移はなく、深達度もそこまで深くないものの、内視鏡治療の適応はこえている状態
→手術、放射線照射、化学放射線療法
全身状態などにより、推奨される治療方法を選択します。
ステージⅡ、Ⅲ:リンパ節転移があるか、もしくは深達度が深いもので、手術がまだ可能である状態
→手術、化学放射線療法、化学療法
全身状態などにより異なります。手術を先行した場合は術後化学療法を考慮いたします。化学放射線療法を先行し、遺残や再発などがみられた場合は手術や内視鏡治療を検討することになります。
ステージⅣA:リンパ節転移があったり、深達度がかなり深い状態 手術は不可ではあるものの、遠隔転移はない状態
→化学放射線療法、放射線療法、化学療法、緩和治療
手術はできませんが、病変が局所にとどまっている状態ですので、可能であれば化学放射線療法が推奨されます。化学放射線療法ができない場合は放射線単独による治療を検討しますが、化学放射線療法と比べ、治療成績が劣ると言われています。
ステージⅣB:遠隔転移がある状態
→化学療法、化学放射線療法、放射線療法、緩和治療
遠隔転移がある場合は、標準治療は全身化学療法となります。ただ食道癌により食道・気道狭窄がみられたり、骨転移などによる症状が顕著な場合は、化学放射線療法、放射線療法を先に検討することになります。治療の目標は根治ではなく、苦痛を少なくして日常生活を送ることになりますので、適宜症状を伺いながら治療を選択していきます。
食道腺癌について
日本では食道癌のほとんどは扁平上皮癌と呼ばれる扁平上皮から発生する癌ですが、稀に腺癌という、腺上皮から発生する食道癌もみられます。頻度としては本邦では約7%程度といわれています。
食道腺癌は、主にバレット食道というところから発生します。バレット食道は内視鏡で確認できますが、胃から食道に伸びてくる食道が円柱上皮に置き換わった部分です。肥満や喫煙、欧米型の食生活などが逆流性食道炎や食道の慢性的な炎症を引き起こし、バレット食道形成の原因になると言われてます。
バレット食道(バレット粘膜)が3cm未満の場合の発癌率は低いとされておりますが8)、一方でバレット粘膜が3cm以上みられる場合は、発癌率が年率1.2%と推定されるとする報告もあり9)、その場合は定期的な内視鏡検査が推奨されます。バレット食道と診断された場合、その長さについて注目してみてください。
参考文献
1) Steevens J, et al. Gut. 2010; 59(1): 39-48
2) Sakata K, et al. J Epidemiol. 2005; 15 Suppl 2 (Suppl Ⅱ): S212-219
3) Castellsague, et al. Int J Cancer 82: 657-664, 1999.
4) Morita M, et al. Surgery 131(1 Suppl): S1-6, 2002
5) Morita M, et al. Int J Clin Oncol 15: 126-134, 2010
6) Freedman ND, et al. Int J Cancer. 2007; 121(12): 2753-60
7) Yamaji T, et al. Int J Cancer. 2008; 123(8): 1935-40
8) Fukuda S, et al. Dig Endosc. 2021.
9) Matsuhashi N, et al. J Gastroenterol Hepatol. 2007; 32(2): 409-14