便秘
便秘とは、排便が順調におこなわれず、便が腸管内に停滞する状況のことをいいます。日本消化管学会の「便通異常診療ガイドライン2023」によると、便秘とは「本来排便すべき糞便が大腸内に滞ることによる兎便状便・硬便、排便回数の減少や、糞便を適切に排泄できないことによる過度な怒責、残便感、直腸肛門の閉塞感、排便困難感を認める状態」と定義されております。またそれに伴い、慢性便秘というものも定義されており、「慢性便秘症とは慢性的に続く便秘のために日常生活に支障をきたしたり、身体にもさまざまな影響をきたしうる状態」とされております。全年齢において10人に1人は慢性便秘症と言われておりますが、年齢を重ねるにつれて便秘を認めやすくなるため、ご高齢の方はさらに多い割合で慢性便秘であるといえます。
便秘の発症リスクは、運動量の低下、性差(女性)、加齢、腹部手術歴、特定の基礎疾患(神経疾患や精神疾患など)、および薬剤と言われています。また腸内細菌も病態に関与していると言われています。
慢性便秘の原因となりうる基礎疾患
・糖尿病
・パーキンソン病、脊髄障害、脳血管疾患、多発性硬化症
・うつ病、統合失調症
・消化管腫瘍、慢性偽性腸閉塞、痔核、巨大結腸症
・皮膚筋炎、全身性強皮症
・アミロイドーシス
・甲状腺機能低下症、副甲状腺機能亢進症 など
慢性便秘の原因となりうる薬剤
・麻薬性鎮痛薬(モルヒネ、オキシコドン、コデイン、フェンタニルなど)
・向精神薬(抗うつ薬、抗精神病薬)
・パーキンソン病治療薬(ドパミン補充薬、ドパミン受容体作動薬、抗コリン薬など)
・制吐薬(グラニセトロン、パロノセトロンなど)
・鉄剤
・化学療法薬 など
慢性便秘は生活の質を低下させるだけでなく、心血管疾患、パーキンソン病や腎疾患の発症リスクの上昇と関与していると言われており、適切な治療が必要といえます。
治療
・食事療法
慢性便秘症に対し、食事指導・食事療法が有効といわれています。
具体的には、発酵性食物食品のうち、グアーガム分解物という水溶性食物繊維が慢性便秘を改善させるという報告や、キウイフルーツやプルーンが慢性便秘を改善させるという報告もあります。また、小麦の食品よりも米や豆由来の主食のほうが便秘に有効と言われていたり、ヨーグルトなどの乳酸菌食品が便秘に有効と言われていたりします。
・運動療法
有酸素運動が便秘に有効ではないかという報告はありますが、十分な評価はしつくされていないのが現状です。ただ腹壁マッサージは慢性便秘症の改善に有効であったという報告もされており、難治性の慢性便秘症の方にはおすすめいたします。
・プロバイオティクス
プロバイオティクスとは微生物のことを指しますが、「適正量を摂取することによって、人の健康に有益な効果をもたらすことのできる生きた微生物」と定義されています。プロバイオティクスは下痢の改善、アレルギーの抑制、動脈硬化の予防や抗腫瘍作用など有益な作用があることが報告されており、便秘に関しても、排便回数の増加、便秘症に伴う腹部症状の改善に役立つことが報告されております。
・薬剤(下剤)
慢性便秘症に対する下剤として、膨張性下剤、浸透圧性下剤、粘膜上皮機能変容薬、胆汁トランスポーター阻害薬刺激性下剤、刺激性下剤、漢方薬、坐剤・浣腸薬などがあります。それぞれ特徴があり、長期連用を避けた方がいい薬や、身体の状態によっては重篤な副作用をきたす可能性もある薬剤も含まれています。
種類も多く、治療効果も個人によって異なるため、お薬の調整が難しい領域の一つです。医師や薬剤師等の医療機関のスタッフと十分相談し、適切な薬剤を選択することが肝要です。